2012年3月20日火曜日

そよ風の贈り物



ふと、道を歩いていると、ふわっと温かくて、やわらかい風を感じることがある。
そういう時、私は、なんだか空気のかたまりにふんわりと包まれているような不思議な感覚になる。さっきまでの考え事も、ついつい忘れてしまうような、とっても居心地の良い瞬間だ。
  
20121月に、友人、曽我小百合ちゃんと立ち上げた、moani
moaniとは、ハワイ語で「風」を意味する。
風にはいろんなニュアンスがあって、ハワイ語でも風を意味する言葉は、実はたくさんある。その中でも、moaniは、香りを含んだそよ風、という意味合いがある。雨上がりの葉や花についた水滴に風が混ざって、なんともやさしい甘い風がときたま吹くことがあるけれど、そういう香りを含んだ風をmoaniと呼ぶようだ。

実は、映画のワンシーンからイメージを起こし、ネーミングを考えた。
それは、映画「ホノカアボーイ」の大好きなラストシーン。ハワイ島にある、オールドタウン、ホノカアでかつて過ごした青年が、再びその地を訪れ、まっさらな空と明るい陽が降り注ぐ、海岸の丘に立ち、ただただ、風を感じる場面。
「死んだら、人は風になる」。でも、その風を感じる瞬間、その青年が、「大切な人の死」だけではなくて、その先にずっとある、何かとても大切なものにつながっているように私には、見えてしまう。光や土や水や草や、いろんなものと響き合う瞬間。

私が、そういう風を感じた場所は、オアフ島のマノアという地区だ。
「ホノカアボーイ」を観るたび、その町を1人歩いていた瞬間を想い出す。
少し歩けば、渓谷と切り立った山に続く深い森がある、雨が1日に何度も降り注ぐ町、manoa



私は、滝のある森をトレイルした帰り道、道路の脇にあるベンチに座って、泥がたくさんついたスニーカーから、ビーチサンダルに履き替えた。ふうと、一息つくと、さっきまでの森の中のむっと蒸したような空気とは違って、とてもやさしい風が流れていた。
「あー風が気持いい」
全身を風にまかせて、足をぶらぶらさせながら、ぼんやりする。ベンチの横にある家のふかふかの芝が生い茂り、南国の花がふんだんに咲く庭では、二匹の大きな犬が幸せそうな顔で眠っていた。犬が微笑んでいるのを目にするのもはじめてだったけれど、こころもからだも、ぜーんぶゆったり自然にまかせて「たゆたう」その瞬間がすごく幸せだった。
  
ブランドに「風」と名付けたのには、服を着ていろんな人にそういう「風と共にたゆたう時間」がおとずれてほしいという願いがあるからだ。そういう気配や直感で感じる洋服を作りたいと、ふと思ったのだ。ホノカアボーイのラストシーンを想い浮かべながら・・・

He makana puhi ana
~風は流れているんだ。乗ってごらんよ。